きれいな夕日を眺めたあと、
一日が平和に終わっていくことに感謝しながら眠りについた2日目。
3日目は下山。今回の山行が終わりを迎えようとしていた。
目が覚めると、午前3時30分だった。
星、出てるかなぁ・・・
ちょっと覗いてみるか。
寝ぼけ眼でテントから顔を出すと、星空が広がっていた。
天の川も見える。
宇宙だ・・・
テントから、上半身だけを出して、
レインウェアを敷いた上に寝転びながら星を眺めた。
(膝を曲げてあおむけになっている状態。ずぼらスタイル。おすすめ。)
これだけ星が出ていると、どれが何かなんてどうでもよくなる。
あの星の名前を知っていることが、一体何になるんだろう。
人間て、ちっぽけだな。
宇宙だなぁ・・・
少しガスが出てきたので、私は引き続き眠ることにした。
ごろごろ・・・
あぁ、起きなくちゃ。
片付けなくちゃ。
下山しなくちゃ。
うーん、無理。動きたくなーい。
ぐーたら病の発作に見舞われていた。
外はすっかり明るい。
小鳥たちがさえずっている。
今の時刻は・・・7時20分ですか。
起きますか・・・
のそりのそりとシュラフを出て、パンをかじり、なんとなく荷物をまとめはじめた。
テントから出ると、それはそれはいい天気。
針ノ木と立山だ・・・
槍と西鎌尾根だ・・・
ますます下山したくなくなった。
下山したくないので、シュラフやテントを干すことに。
誰もいないのをいいことに、荷物を広げすぎ・・・
テン場は完全に貸し切り状態だった。
水場へ行ったり、ハーモニカを吹いたりしながら過ごした。
至福のひと時。
いい加減テントも乾いてしまったので、片付けていると、昨日の2人が通りがかった。
「こんにちは~」
今日も2人は素敵だ。
10分ほど、色々とお話をした。
船窪岳まで行ってきたそうだ。
2人の空気感は最高の癒しだった。
そして、昨日に引き続き、チョコとゼリーをいただいた。
山で食べ物をいただけて、とても嬉しかった。
記念に、一緒に写真を撮ってもらえることになった。
そのときなんと、サブザックから「てるてる坊主」が飛び出した!
「えー!うそー!!てるてる坊主!!!」
思わず叫んだ。
山にてるてる坊主を、しかも結構大きなてるてる坊主を持ってくるなんて!
なんて素敵な世界観なんだろう。
私はとにかく持ち物をシンプルにすることにこだわりすぎて、遊び心をどこかに落としたのかもしれない。
2人からは、たくさんのことを考えさせていただいた。
写真は宝物。
荷物を完全にまとめ、いよいよテン場を発つことにした。
「行きたくないなー、行きたくないなー」とブツブツいいながら、足は前へ進めるしかなかった。
のそのそ歩いて船窪小屋へ到着。
今日も鐘を鳴らしてくれて、お茶を出してくれた。
「荷物おろして、お茶でも飲んでのんびりしてって」
その言葉に甘えて、外のベンチでのんびりさせてもらった。
「今日は本当にいい天気ですね~ 帰りたくないです」
早朝は、富士山や南アルプスも見えたそうだ。
今はすっかり雲海が上がってきて隠れてしまったとのこと。
見たくなかったかと言えば嘘になるけれど、
夏の終わりか秋になったらまたここへ来ようと思う。
昨日は雨やガスで景色はあまり見えなかったけれど、
それは「またおいで」という神様のお達しなのだろう。
たくさん山の話をしていたら、お2人様に再会。
こんどは山で作ったゼリーをくれた。
大きな容器にお湯とゼリーのもとを入れて作ったもので、何人かで山に入るなら、絶対楽しそう!
参考にさせていただきます。
「これが北葛岳の分、これが七倉で、これがさっきのテン場で、これが船窪小屋の分ね!」
そういって、4さじ分も分けてくれた。
今回は、食べ物と癒しを分けてもらってばかり。
何もできなかったけれど、いつかどこかの山で会ったときは、何らかの形で恩返ししたい。
すっかりお昼になってしまったので、お湯を沸かしてラーメンを食べることにした。
イメージはこんな感じ。
みんな大好きマルタイラーメンに、乾燥わかめと高野豆腐を入れて少し煮込んだもの。
マルタイラーメンベースで作ると、よっぽど変なことをしない限り失敗することはないので安心だ。
さて、のんびりするにも限界があるので、そろそろ本当に下山しなくては。
少しずつ、山道を下り始めた。
振り返れば、針ノ木と蓮華がよく見える。
あの稜線からは、何が見えたのだろう?
いつかまたそこに立ったときに見える景色を想像しながら、山を下りていった。
下りは、あっけないほどにあっという間だった。
下山したのは14時15分。
コースタイムは、確か2時間15分くらいだったと思う。
テン場と船窪小屋で、心ゆくまでのんびりしたのが見て取れる。
2合目から下が、思いのほか長く感じた。
無事に下山。
「山にいる」という以外の目的のために山へ行ったのは初めてだったけれど、たくさんの人と話せて、とても充実した時間を過ごさせてもらった。
お話した皆さんのエッセンスで、私が作られている感じがした。
下山してすぐ、七倉山荘で温泉に浸かった。
3日間の色々な出来事が、血液と一緒に体中を循環しているようだった。
山が所によって観光地化する中、山小屋の役割とは何だろうとよく考えさせられる。
商業ベースでやっているように思われるところもあれば、古くからの伝統を守って運営しているところもある。
船窪小屋は後者の代表で、だからこそ、どんなところなのかを自分の目で確かめたかった。
行ってみると、そこは理想郷のようだった。
小屋で働く人と、登山者との交流がたくさんあり、登山者同士も情報交換などしやすい小屋だと思った。
そして何より、人に親切にすることに対して、変に気を遣わなくて良いのだと感じた。
大きなところで働けば、あの人にはやったのにうちにはやってくれない、とか、サービスに対して不公平感を持たれたり、不満が出てはいけないので、いちいち気を遣わなくてはならないと思う。
学生時代の3年間、バイトをしながらそんなことをすごく気にしていた。
だけど船窪小屋では、一人の人間と人間、という印象が強かった。
目の前の人に対して、自分がどこまで何をできるのか?
どうしたらその人にとって最善を尽くせるのか?
それを中心に考えて人と接することができるのは、すごくありがたいことだと思う。
もちろん実際に働いてみないと分からない部分がたくさんあるのは言うまでもないけれど、私の直感は、働かせてもらえるならここがいいよ、と言っている。
来年の今頃どうしているかは分からないけれど、この小屋にいられますように。
「船窪小屋をたずねて」1-5 完
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
1~4は以下です。
よろしければご覧ください。
うめこ
コメント
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