雪の中に埋めてもらった。
ちょうど1人が入れる大きさに深さ70cmくらいの穴を掘って、その中にうつ伏せになる。
顔の前に空気穴を掘って横たわったら、上からどんどん雪が盛られて、踏み固められて、あたりは静かになった。
動けない、重い、暗い。
あぁ、雪崩に飲まれたらこんな感じなのかなぁ。
どんなところで、どんな体勢で、どんな雪に、どのくらい埋まるかはさておき、雪の重みをひしひしと感じた。
埋まっていたのは1分半ほどらしい。
掘り出されて胸いっぱいに吸い込んだ空気は格別だった。
掘り出してもらえると分かっているから「まだかなぁ、重いなぁ」で済むけれど、実際に埋まった場合は胸部圧迫で苦しいところに、酸欠の息苦しさが加わってくるだろう。
実際に雪崩に飲まれた人の話を聞くと、だんだん意識が薄れて走馬燈が始まるらしい。そして、そんな状況になったあとで掘り出されると、激しい吐き気と頭痛に見舞われるそうだ。
そういう経験は、しないに越したことはないし、したくはない。
けれど、この冬の仕事はアバランチコントロール。
自分が発生させた雪崩に巻き込まれる可能性はゼロではない。
不安じゃないといえば嘘になるし、はっきり言って自信もない。
自分のいまの実力で何とかできる範疇を超えているのは、気のせいではない。
それでも、心の底から雪が好きで、せっかく巡り合わせてもらった仕事だから、何もかもすべて受け入れて精一杯やっていくしかない。
今までにしたことのない経験をして、何を思って、どんなふうに変わっていくのだろう。
熱い冬が、いま始まろうとしている。