【山小屋2018】つかの間の晴れ

山小屋日誌
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秋雨前線の影響で雨が降り続き、台風が来て一過の晴れが来るかと思いきや雨で、ずっと視程100メートルに満たない白いガスの中にいたのだが、ある日ふと晴れになった。
同僚が、これはチャンスとばかりに近所の岩場へ行くがどうかと誘ってくれたので、ロープなんかを携えて行くことにした。
久しぶりの晴れ、太陽の光がとても心地よく、吹く風は柔らかい。
稜線を歩く足はどんどんペースをあげて、心臓と肺が追いつかないくらいだった。


登ろうと思っていたルートにはすでに取り付いている人があったので、干渉しないところを選んで登りはじめた。
岩の感触、草の香り、気持ちいいなあ。
五感で自然を目一杯感じながら、ビレイしてリードして休んでビレイして…
4ピッチ、5ピッチ、思っていたよりもルートは長く、予定していた時間よりだいぶ遅くなってしまった。
早く小屋に帰らなくっちゃ。
そんな気持ちで最後のピッチを登り切ると、西日を受けて輝く世界が広がっていた。
浮雲に草紅葉、まだ青さの残る山肌、どこまでも続く峰々、透きとおった空。
連日の雨に洗われて、あらゆるものが生まれ変わったように見えた。

きれいだなぁ…
山ってこんなにきれいなんだなぁ…

毎日山にいると、そこにあるものは当たり前のようになってしまうけれど、それは少しもったいない。
刻々と変わってゆく雲の形や風の匂い、草花の色、その時しか感じられないことが本当はたくさんあるのだから。

目を閉じて、深呼吸をして、心地よさを吸い込んだら、稜線に復帰して急ぎ足で小屋に戻った。
小屋のみんなには迷惑をかけたうえ、何よりすごく心配をさせてしまって反省する他なかったけれど、ずっと小屋にこもりきりで塞いだ気分は生まれ変わったようにすっきりしたのだった。

その翌日からは雨とガスの日が続き、再び白さの中に閉じ込められた。たった1日の晴れの日は夢か幻のようだった。

いつの間にか太陽の軌道もずれ、草木は染まり、わずかに残っていた雪渓も消えてなくなっていた。

次の晴れ間に山は何を見せてくれるのか、季節はどこまで移ろっているのか、小さな変化を見逃さないように山と向き合いたい。