もうだいぶ前になるけれど、5月の連休は最終日。
空模様は晴れから雪に変わり、せっかく掘り出した窓や水タンクが一夜のうちに埋もれてしまった。歩きやすくなっていた登山道にも雪がつき、季節は束の間の冬となった。
小屋の中にこもりがちな私達にとっては、外でスコップを振り回せるので嬉しい限り。

こんなとき、人間には太陽の下で体を動かすことが必要だというのを実感する。
あの時期にしては希少な新雪を滑りたくて、いつもより早起きした。
空と風のご機嫌を伺いながら玄関先の除雪をして、20分ほどハイクアップ。

ガスの切れ間から遠くの山まで白く染まっているのが見えた。朝日に照らされた白い峰はとても美しく、目をつぶって思い切り深呼吸した。
そしてドロップ。
山に持ってきている柔らかい板では少し物足りないくらいにウインドパックされた雪。
しっかり踏まないと負けてしまう。
1ターン、2ターン、3ターン…至福。
雪質はそんなに良くないけれど、このロケーションで滑れる機会はこれで最後かもしれないと思うと、もう一本滑りたくなってしまう。
2本目、さっきよりは少し下からドロップ。
やはり雪は固めだけど、朝一のスキーはとても気持ちがいい。
小屋に帰って朝食をいただく。
早起きはご飯が美味しくなるおまじないだと思う。
せっかく降った雪も少しずつ空へ還っていき、一日でほぼもと通りになった。
降ってくるときから溶けていくまで、雪は本当に美しい。
さて、それから1ヶ月ほどが過ぎ、下界は夏のように暑くなり、梅雨入りが発表された。
谷の雪もすっかり減って、ハイマツが青々と茂り、ライチョウはお腹までほとんど黒や茶色になっている。

季節は少しずつ夏に向かってゆくなか、神様は白い世界をもう一度見せてくれた。
朝起きて、外を見ると、辺りはガスの白さだけではない白に包まれていた。
小さな氷の粒が積み重なって織り成す白。
昼前からは青空が見え、より一層白が引き立った。
雪の積もった山は、その陰影が何より美しい。

特に今回はハイマツの若い緑と白のコントラストが格別で、今までに見たことのない色を見た気がした。
いつも山にいてもなかなか見られない、ほんの一瞬の景色…
あぁ、小屋番冥利に尽きるなぁ、なんてね。