【山小屋2019】小屋番の休日

山小屋日誌

下界におりてきた。

あまりの暑さに蒸発しそう、みんな生きているだけでエライと思う。

今回はただ下界でやったことを淡々とつづりたい。

マイフレンドに「あんた下で何やってるの?」って言われたので、需要はないと思うけど小屋番がどんな休日を過ごしているのかを少し覗いてもらえたらと思う。

今回の休暇は8月8日下山で10日上山。通称「中イチ」下山。

とりあえず7日が荷揚げで、ヘリが無事にとんだので下りることにした。

そして、土曜日はまぁまぁお客さんがいるので、別に私がいなくても大丈夫な気がするけど何となく小屋に帰ろうかなと。

でもこの計画は駐車場についた瞬間に破たんした。

だって、平日のお昼すぎに下山したのに駐車場が満車だったから。土曜日の午前中のいい時間には間違いなく満車か・・・詰みです。

というわけで、早朝に駐車場につくように色々やらなければいけなくなってしまった。

休暇で下界に下りるときはいつも、山での生活を充実させることを考える。

今回特別やらなきゃいけないことは、ズボンを買うことと、ケータイを注文すること。

春先からメインで履いているズボンは2本あるけれど、2本とも膝に穴があいて、直して履いていたら、逆の膝にも穴があいて、ピカチュウのアップリケとかあったら縫い付けてもいいかなって思いつつ、そんなことしたら下界で履けないじゃん、ということに気づき、結局買おうか買わないか直そうかどうしようか悩みながら月日が過ぎてしまった。まともなズボンが1本もない。

そしてケータイはもともと液晶バッキバキだったのが下山の2日ほど前についに充電ができなくなってしまい、買い替えを余儀なくされてしまったという状況。新しいケータイを注文するための手段(ケータイ)がないというスーパージレンマ。

下山してまず悩んだのが、温泉に行くかどうか。

ちょうど町に出るまでの通り道にある温泉だが、何となくご飯を先に食べたいような気もしたりしなかったり、でもその温泉に入らないとお風呂がなかなかない。

不潔なのは百も承知だけど、ぶっちゃけ風呂とかどうでもいい・・・

でもこの下界では風呂に入らないのは許されないので、やっぱり入らないといけない・・・

結局悩んだ末に温泉に行ったら、おばあちゃんがお風呂から上がるときに「じゃ、一足お先に。おやすみなさい」ってにこにこ挨拶してくれたり、帰りに駐車場でおじいちゃんと立ち話をしたら「じゃあね。これ、元気の源なんだ」って言いながらキャラメルをくれたり。

何、このすげー平和な世界、信州!

最近小屋では疲れに加えて人間関係に悩む人も多く、今年の私はそれを見ている第三者的な立場なのだけれど、それでも多かれ少なかれ精神汚染されているので、平和な日常的なやり取りがこの上なく身に染みる。

そこから快活クラブのある場所をめざす。長野に向かうか松本に向かうか相当悩んだ挙句、目的地は松本にすることにした。

だいぶ長湯してから向かった先は「スイートあづみ野」。行きつけのパン屋さんのひとつ。

すごくたくさんの種類のパンを取りそろえるパン屋さんで、カフェも併設。近くを通るときは必ず立ち寄る場所で、会社員時代から通っているおすすめスポット。

パン(晩ごはん)を調達したら、次はズボンを調達。

ユニクロで安いズボンを買うか、松本市街のいい服屋さんでちょっと高いズボンを買うかずっと悩み続けていたけれど、膝をつく機会の多い山小屋では良いズボンはもったいなさすぎるので、ユニクロへ。

スーパーで買い物もして、夏野菜を見て癒され、今年の豊作不作を何となく知る。

駐車場で大きな入道雲を見上げていたらあわや車にひかれそうになり、あぁそういえばここは下界なのかと気づく。

きっと山の上からもどこかに大きな入道雲が夕日に照らされているのが見えるはず、いいなぁ、ボスはいい写真とれてるかなぁ・・・もう山に帰りたいと思っている自分がいる。でもたぶん実際に帰る段になるとめんどくさいなぁって思うんだよね、毎度毎度。

激しい雨が一時的に降ってはやみ、そんな中をとりあえず松本の快活クラブ目指して車を走らせる。

松本に来たならあの人に会いたいという人もいるのに、携帯がないのでどうしようもない。

あーあ、つまんねぇ。

こんなとき、意外と人が好きだということに気づかされる。

山にいると、下界の時間はこの上なく貴重だ。その貴重な時間に何もかもを詰め込むために、スマホはめちゃくちゃ重要だった。行きたい場所があり、会いたい人があり、食べたいものがあり、欲望はどこまでもキリがない。

快活クラブではやりたいことがあったのだけど、疲れて寝てしまった。

翌日快活クラブを昼前に出て洗車場へ向かった。車をずーっと山の中にとめておくと、なんか知らんけどめっちゃ汚くなる。そりゃそうだけど・・・下山して車を見たらへこむレベルで汚い。葉っぱとか砂利とか虫とかうんことか色々。

車には洗車グッズ常備なので、いつでもどこでも水と場所があれば洗車ができる。

こびりついた汚れを優しくふき取りながら車をねぎらって、いつも留守番ばかりで悪いねなんて話かけたりして。愛してる。それにしても暑すぎる下界。車を洗いながら噴き出す汗が半端ない。山と違ってさわやかな汗じゃない・・・

ひと段落して、買い物しにツルヤ渚店があるところへ向かう。

お昼はどうしようか悩むけれど、下界に下りてくるとなぜかお腹が全然すかないのでご飯はいらない。本当はね、松本駅周辺でいいもの食べようと思っていたんだけど、何せスマホがないので行きたかったレストラン予約できず、断念。ちなみに「鯛萬」というフレンチ。

服とか化粧品とかどうでもいいけど、食べることは生きることの本質だと思っているので、食べ物にはお金を惜しみません。

だらだら買い物したあとは、公衆電話を求めて松本駅へ向かう。

「公衆電話」なんてもう響きだけでエモい。エモすぎる。想像の中の絵がセピア色になるもの。

で、財布にはテレフォンカード常備なので、実家に長電話をすると。

両親が北海道からはるばる私の嫁ぎ先である北アルプスに来るというところでまさかのスマホがご逝去なので・・・本当は持ち物とかそういう話をしたかったのに、まず話題に上るのは実家に届いている各種振込用紙とかそいういう話題というのが悲しいよ。

で、何となくプラプラしたら昼に鮮度の問題で買えなかったものとか軽食なんかを買いに再びツルヤに行き、のんびりして、夜はまた快活に向かうといういつものパターン。

新鮮な野菜が売っているのを見るとすごく充実した気持ちになるね。

アニメを見て心を開放。最近のアニメではなく、なぜかケロロ軍曹を見てしまったけど至福。あ、もちろん新しいスマホも注文した。のちに分かるけれど、注文したスマホと使っていたスマホではシムの規格が合わなかったので(きっと大丈夫っしょ~って高をくくってしまった)結局なかなかオンライン生活に戻ることができなかった・・・

あー、山に戻るのがめんどくさくなってきた。このままずっとアニメと漫画のある世界にいたい・・・

そんなことを思いつつ、駐車場が混むと分かっているのでまだ暗いうちに登山口を目指して走る。

空が白み始めたころ駐車場についたけれど、あれ、とめられなくない?

有料駐車場にはまだ空きがあるので、その辺にいる人に声をかけさせてもらい、「すみません小屋番やってまして・・・お金出すので場所変わってもらえませんか?」とお願いをする。

幸いにも、快くOKしてくれる人があって、すごく助かった。

山でいいことありますようにと、感謝とともに祈った。

まだ登るには少し早いので、何となく眠って、買い物した荷物をまとめて、そんなに早くない時間に出発。

そしてまぁいろいろ経由して小屋に帰ったのが昼の12時すぎだったかな。

「お帰り」って言ってくれる人がいるってすごくいい。

「何か食べる?」って言ってくれるのもすごくいい。

私は山に住んでる。

夏の山には、家族がいる。

そんな感じ。

休暇はなんだかんだ楽しくて、なんだかんだ疲れて、あっという間に終わってゆく。