山小屋には3時までに到着してくださいねって言うのもう嫌だけど言う

山小屋日誌

先日、冬の仕事の先輩が働いている小屋に遊びに行ってきた。
そこは少し山深いところで、歩いて30分と、2〜3時間のところに隣の小屋がある立地。

先輩に「お前、おせぇよ!」って言われたらショックを受けちゃうので、無心で黙々と歩いて(寝坊したから黙々と歩く以外の選択肢がなくなってしまった)14時ごろに到着してのんびりさせてもらっていた。

15時をすぎ、大体のお客さんは入ったけれど、まだ来ない人がいたようだ。
受付横のテーブル席でくつろいでいたら、17時に差し掛かろうというところで一人のお客さんがやってきた。

先輩はその人に、ちゃんと叱ってあげていた。
「山小屋なので、3時までに着くようにしてください」
その人は素直に先輩の言うことを聞いていた。

その後、一緒に晩ごはんをいただきながら話したことによると、18時をまわってから来た人にちょっと厳しく叱ったら、逆ギレされて先輩も大激怒、スタッフともども大変な日があったらしい。
まあ、いろいろあるよね…
私は小屋番の立場だから、お客さんには、どんな気持ちで小屋の人が叱るのか、考えてみてもらえたらなぁと思う。

「ちゃんと歩ける体力があるし、少しくらい遅くなったっていいじゃない?」って思う人がいるかもしれない。
でも、それはいけないよ。
だって、ここは山だから。
何をするにしても、急ぎに間に合わないもの。

午後になれば天気が急変するリスクが高まる。特に夏。
雨が降れば岩が滑りやすくなり滑落や転倒のリスクが高まる。
ガスがかかってくれば、道迷いのリスクも高まる。
この他にも色々あると思うけど、何かとリスクが高まるのが午後。日没も迫ってくる。

お昼すぎに何かありました、警備隊や小屋の関係者が現地につきました(この時点でかなりの時間が経過してしまう可能性があるし、発見できればいいけど見つけられない可能性だってある)、要救助者を動かせません、ヘリじゃないと搬送は難しそうです、でも視界が悪いからヘリは飛べません。
そうなった場合、状況にもよるけれど「死」の一文字がちらほら見えてくる…

人はいつかは必ず死ぬんだけど、山で死ぬのは切ないと思うんだよ。
死んじゃった本人もそうだし、残された家族も友達も。
さよならを言えないまま、突然もう会えないのは切ない。
心が行くあても無く、空をさまよってしまう。

死ぬのは最悪の事態だけど、私達はいつも死人が出ることを想定している。
死なないにしても、何かしらトラブルが起こってしまうのは山の常だ。
トラブルに対応するために、まず必要なのは時間。
そして、焦らず冷静に観察して判断して対処すること(と、そのための日頃からのイメトレや訓練)。

小屋番はきっと、みんな祈ってる。今日も何もないといいな。
平和に1日終わればいいな、あぁ山きれいだなって。
山に来る人も、ケガしに来る人なんていないはず。
それでも事故は起こってしまう。
事故が起こるのは下界も同じだけど、山では救急車が来てくれず、すぐには適切な医療を受けられない場合が多い。
だからそのぶん、個人で対応しないといけない部分が出てくるんだよね。誰も何もしてくれないと思って備えていれば間違いない。

山に来る人みんながそれをわきまえていてくれれば小屋番としては楽なんだけど、そうではないからなぁ…

というわけで、小屋に遅く到着する人には余裕を持った登山を心がけてもらえるように「3時までには…」と言うわけ。
別に言いたくて言ってるわけじゃない、ただ「山の文化」として、早出早着は当然のこと。
(ちょっとアウトローで楽しい山があるのも知ってるよ!)
遅くなるならせめて、名前と現在地と到着予定時間を小屋に一報するのが人としての義務です。
下界も一緒でしょ?
あまりにも遅い未着の人のことは、遭難していないかスタッフ一同心配しています。

上記のすべてを踏まえて、言いたくないけど言います。
「小屋には3時までには到着するようにしてくださいね!」


【余談】
完全に私的な感情のわがままな話をします。

だいたい17時からご飯でしょ?
で、18時に来られて当たり前のようにご飯食べたいですって言われたら、小屋の義務とかそういうの関係なく人として感情的にムカつかない?
はぁっ?ってならない?笑
たぶん世の主婦の皆さんには共感してもらえると思うんだけど、旦那残業から帰ってこねぇ、連絡ねぇ、メシはいるのかいらんのか、本当に残業なのか?と思うのと似たようなもんでしょ。

よく思うんだけどね、山小屋は遠い親戚の家くらいに捉えたらちょうどいいと思う。
別に手土産を持ってこいと言ってるわけではない。
親戚だったら遅い時間に到着するのは失礼だし、遅くなるなら連絡するでしょ?
逆にその親戚の方も、遅ければ心配するし、あたたかいご飯出してあげようと思って待ってるでしょ?

そーゆーことよ。

というわけで、何度でもいいます。

「山小屋には3時までに到着するようにしてください」

よりよい山歩きのために。