【山小屋2019】小屋じめセンチメンタル

山小屋日誌

頭の中で「宇宙戦艦ヤマト」次回予告の音楽が鳴りやまない。
「人類滅亡まで、あと三百と云々日」
「小屋じめまで、あとx日」
私にとって小屋じめは、人類滅亡に匹敵するくらいの重大事だ。

この山での暮らしを手放すときが今年もやって来た。

最近は毎晩お兄さんとストーブの前であれこれ話して、気づけば日付が変わっている。
寂しいのか、名残惜しいのか、ただ単に変化が嫌なだけなのか、自分の気持ちが分からない。
すごく現実的に考えるなら、4月から今までの半年間の暮らしがガラッと変化するということで、また冬の仕事に戻るというだけ。
センチメンタルに言うなら、山小屋ファミリーがバラバラになってしまう感じ。
後者の気持ちのほうが強い。
小屋じめ直前は、強がりには限度があることを知る。
初めて一人暮らしをしたときと同じ、自由の大海原に放り出されたような気持ち。
ただ一つ違うのは、あんまりわくわくしなくて、ただただ寂しいってこと。

窓という窓に雨戸をはめ、すっかり暗くなった館内。
少しずつ掃除をし、私物をまとめる。
いつどのタイミングで何を食べるか考えながら毎日ご飯の支度をする。
トイレの個室を、紙がなくなったところから閉めていく。
もう使わない部屋の布団を撤去し、畳をあげて、隙間に溜まっていたホコリを掃く。
モノが少しずつ無くなって、片付いてゆく。
私の気持ちとは裏腹に、小屋じめはどんどん加速して、皆それぞれやるべきことをやってゆく。
小屋じめのその瞬間まで私たちはここで生活をするので、全部を全部やり切るのはなかなか難しいけれど、それでも着実に小屋じめの準備は整ってゆく。

小屋じめの作業は端的に言うと、無事に春を迎えるための準備だ。
風雪凄まじい冬を乗り越え、来年もまたここで生活するために、手の限りを尽くす。
風雪の他にも、カビやケモノなど、敵は多い。
風雪は目張りや戸締まりで防ぐことができる。
カビは湿っぽい館内では当然生えるものなので、来春に掃除する。

一番厄介なのがケモノだ。
ケモノたちとの戦いは、地味で壮絶だ。
越冬させる食料は必ずかじられるので、散らかりそうなカップ麺などは冷凍庫の中に入れる。
そしてその上に、ダメ押しで越冬させるゴミをゴミ箱にツメツメに詰めて密封して乗せる。
戸棚の中の小麦粉や乾燥ワカメなども、食い散らかされると春先に泣きを見るので、戸棚にしまったら目張りをしてほんの少しの隙間もないようにする。
細かいものは一斗缶に入れて目張りをする。
糞尿で汚れたら困るようなものも、ビニール袋に入れておく。
ここまでやっても、必ずどこかに抜けがあるようで、今シーズンの春先は噛じられた高野豆腐が何枚も布団部屋の布団の隙間から見つかった。
あとはボロボロのトイレットペーパーも出てきた…
お布団は温かいからなのだろう、ネズミたちに大人気だ。
布団と布団の間からはネズミが蓄えた食料も出てくるし、ネズミ自身もご遺体となって発見されたりする。
厳しい冬を超えられるのは、強いものだけみたいだ。

去年に引き続き、私は帰りたくない病を患っているけれど、みんなは何も患ってなさそうだ。
むしろ自由になれるので嬉しそう。

小屋じめが終わったらまた「食う寝るところに住むところ」問題が発生する。
バックパッカーで放浪したことのある人は経験したことがあるかもしれないけれど「食べる物」と「眠る場所」を確保するのは、楽しくも大変だったりする。
1週間くらい経つと、楽しさは消え失せて面倒になる。
お金にモノを言わせて選り好みしなければ、衣食住の問題は一瞬で解決できる。
でも、冬までプラプラしているためにはそれなりの程良さが必要なので、美味しいものを心ゆくまで食べていい加減満足するか飽きてしまったら、漫画喫茶巡りをしながら霞でも食って生きていきたいなぁ…(理想)。